【003】ひらかれたプロフェッショナルスクールを目指して
つい先日、2019年11月16日と17日に、中部地方に、フィリピンの社会起業家の中村八千代さんをお招きして講演会をおこなった。その詳細にここでは入れないが、彼女がユニカセの事業の今後の展開について、「わたしは、事業を広げることより、質を高めたい。ユニカセの2号店など、フランチャイズは全く考えていない」との参加者から質問に対する答えがあった。
2006年に、八千代さんが前職の国境なき子供たちの駐在員として赴任して以来の付き合いとなるが、それを聞いて、さもありなんと思った。
八千代さんの事業内容もユニークではあるが、このユニカセというオーガニックレストランの事業ではストリートチルドレンなど全員が元チルドレン・アット・リスクで16ものNGOのシェルターにかくまわれていた青年たちに就業機会を与えるばかりではなく、日本からの大学生などのインターンや、スタディツアーなどの受け入れもおこなっている。
今回の話では、近年、特にフィリピンと日本の青少年の交流による人材育成事業に力を入れていることがわかった。日本からユニカセでインターンをさせてほしいと門をたたく大学生などのインターンに対して、「わたしは厳しいよ」と八千代さんは、みずから考えて動けるようになることをうながす。というより、ユニカセレストランの運営にあたっても、「チェックリストはつくるがマニュアルはつくらない」と八千代さんは明言している。それでも、「自分を高めたいとか、挑戦してみたい」という若者のみをインターンとして受け入れている。東京の有名大学や、文部科学省のトビタテジャパン留学奨学金を獲得した学生など、確実に優秀な若者を育成している。
このユニカセの中村さんの話については、いろいろウェブ上でも記事があるのでそちらを参照いただくとして、国際共創塾に話をもどそう。
別のところでもふれているように、わたしが国際協力の世界で仕事をする中で、政府の関係者や国際協力NGOのスタッフの方、ボランティアの方、国際協力に関心をもつ大学生や大学院生など、多くの人たちに接してきた。もちろん、日本だけでも何万人もいるそれらの人の全てに会うことは不可能である。(できないことはないと思うが)
さいわいにして、わたしは「地域開発と参加」という大きなテーマをおかけているということと、もともと農業土木の専門開発コンサルタント会社に所属していたので、国家計画の立案から農村のコミュニティ開発まで、非常に幅とひろい業務に接することができた。
そもそも論であるが、農村開発は、地域の全ての側面に対してアドレスできなくてはならない。農業、飲料水の確保、保健・医療、教育、生計向上、住民組織、協同組合、資源管理、交通、市場流通などなど、あらゆる人間活動の側面について、たとえ自分の専門でなくても、一通りの見立てができないといけない。
わたしは、エンジニアなどの専門家ではなかったため、チームリーダーのかばん持ちで、それぞれの専門家のアシストにまわる機会が多かった。入社当初は、なんの知識もない素人が、いきなり専門家とJICAなどのクライアントとの打合せに出席して議事録を作成させられるのである。いわゆる「門前の小僧習わぬ経を読む」ということもできるが、実際には仕事を通じて必要だと思われることを、非常に幅広く、かつある程度以上に深く学ばせていただくこととなった。「門前の小僧は(学ばないと)習わぬ経を読む(ことができない)」というのが真実であると思う。ただ、習ってはいないけど「経」というありがたいものがあるということを、まずは「門前で知る」ことが、小僧にとってのさいわいであったと思う。
さて、ユニカセの八千代さんに話を戻すと、おそらく、少人数でも弟子をきちんととって鍛えていくのが師道のあり方なのであろう。しかし、わたしは、残念ながら、そこまで弟子に手をかけることはできない。
つまり、国際共創塾のあり方としては、業界でプロフェッショナルとして求められている全体像を示し、さらに、その最低水準を明確に示す。塾生の個々が自分のめざす専門や関心分野を深めていくのは、当たり前のことではあるが、日本の大学や大学院教育では抜けている点、一人でがんばっていてもなかなか気がつかない点、見落としがちな点を指摘したい。しかも現実には、それらのだれもが重要視していないようなところに、もっとも大切なことが隠れていることが多い。
つまり、国際共創塾のカリキュラムを通じて自己研鑽すれば、まったくの初心者でも、最低限のレベルをクリアしたプロフェッショナルの入り口に立つことができる。この最低限のラインを示すことがこの塾の役割であり、それを基本的にウェブ上で展開することをわたしはもくろんでいる。
八千代さんとはやり方も方向性も違うであろうが、わたしも世界を舞台に活躍できる人材というか仲間を育てることに対する熱意は負けていないと思う。
わたしは、世界の片隅で、全然、見たこともあったこともない若者から、いつも国際共創塾の記事をキャリア形成の参考にさせていただきました、と話しかけられたら素敵だなど思う。自分の手を離れた文字や言葉が、世界のどこかで読まれて何かを変えていること。そんなときが来ることを信じて、この国際共創塾という事業をすすめていきたいと考えている。